25.10.03
システム開発の要件定義とは?進め方や手順、流れをわかりやすく解説

システム開発の要件定義とは、プロジェクトの成功を左右する極めて重要な工程です。
この段階で、開発するシステムに必要な機能や性能を明確に定めます。
本記事では、システム開発における要件とは何かという基本から、具体的な進め方や手順、全体の流れについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。
適切な要件定義の進め方を理解することで、プロジェクトを円滑に進行させることが可能になります。
まずは基本から!システム開発における要件定義の役割
システム開発の土台となる「要件定義」の概要
「要求定義」とは何が違うのか?それぞれの目的を解説
要件定義で失敗するとどうなる?プロジェクトへの影響
手戻りや追加開発で開発コストが増大する
システムの仕様が固まらずスケジュールが遅延する
完成したシステムが業務内容に合わない
要件定義書に盛り込むべき2つの重要項目
初心者でもわかる!要件定義を進める5つのステップ
要件定義を成功に導くための4つのポイント
要件定義で求められる担当者のスキルセット
まとめ
システム開発における要件定義は、プロジェクト全体の方向性を決定づける羅針盤のような役割を担います。
この工程の目的は、発注者がシステムに求めることと、開発者が作るべきものの認識を合わせ、開発のゴールを具体的に設定することです。
後続の設計や開発といった全工程は、ここで定められた要件定義に基づいて進められるため、プロジェクトの土台となる非常に重要なプロセスと言えます。
要件定義は、システム開発プロジェクトの最上流工程に位置づけられ、システムに実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にする作業です。
発注者(ユーザー)が抱える課題や要望をヒアリングし、それを基に「システムで何を、どこまで実現するのか」という範囲を具体的に定めます。
ここで決定した内容は、システムの画面設計や機能設計を行う基本設計フェーズのインプット情報となります。
したがって、要件定義の精度がプロジェクト全体の品質やスケジュール、コストを大きく左右するため、非常に重要な工程とされています。
要件定義と混同されやすい言葉に「要求定義」があります。
要求定義は、要件定義の前に行われる工程で、ユーザーがシステムに対して「こうだったらいいな」「こんな機能が欲しい」といった要望や課題を自由に洗い出す段階です。
目的は、システム化によって実現したいことを網羅的に収集することにあります。
一方、要件定義は、その集まった要求の中から、予算や技術的な実現可能性を考慮して、システムとして具体的に実装するべき仕様、つまり「要件」に落とし込む工程です。
要求はユーザーの希望、要件は開発するシステムの仕様と整理すると分かりやすいでしょう。
要件定義の失敗は、プロジェクト全体に深刻な影響を及ぼします。
この工程で定義が曖昧だったり、関係者間の認識にズレがあったりすると、後々の工程で様々な問題が噴出します。
例えば、開発コストの想定外の増加や納期の遅延、最悪の場合には完成したシステムが全く使えないといった事態を招きかねません。
ここでは、要件定義の失敗が引き起こす具体的な影響について解説します。
要件定義が不十分な場合、開発の途中で仕様の変更や機能の追加が頻発します。
これにより、すでに作成した設計書やプログラムを修正する「手戻り」が発生し、余計な工数がかかります。
当初の見積に含まれていなかった作業が増えるため、開発費用は必然的に増大します。
特に、成果物の完成を約束する請負契約の場合、契約範囲外の追加開発は別途費用が発生し、発注者と開発者の間でトラブルになることも少なくありません。
初期段階で要件を固めることが、予算超過のリスクを抑える上で極めて重要です。
要件定義が曖昧だと、後工程を担当する設計者や開発者は、どのような機能を作ればよいのか判断できません。
その結果、仕様に関する確認作業が頻繁に発生し、個々のタスクが停滞してしまいます。
一つ一つの遅れは小さくても、積み重なることでプロジェクト全体のスケジュールに大きな遅延をもたらします。
特に、開発の終盤で定義漏れの要件が発覚した場合、大幅な設計変更や追加開発が必要となり、納期を守ることが極めて困難になるでしょう。
明確な要件は、プロジェクトを計画通りに進めるための道標となります。
要件定義で失敗する最も深刻なケースは、完成したソフトウェアが実際の業務で役に立たないことです。
ユーザーの業務フローや本当の課題が正しく理解されないまま開発が進むと、操作性が悪かったり、必要な機能が不足していたりするシステムが出来上がってしまいます。
どんなに最新の技術を使ったソフトウェアであっても、業務効率の改善につながらなければ導入する意味がありません。
結果的に、多額のコストと時間をかけて開発したシステムが全く使われず、投資が無駄になってしまうリスクがあります。
要件定義で決定した内容は、要件定義書というドキュメントにまとめられます。
この要件定義書は、発注者と開発者の間で何を作るのかという合意を形成するための公式な資料となります。
その内容には様々な項目が含まれますが、特に重要となるのが、システムが提供する機能を定める機能要件と、システムの品質や性能を定める非機能要件の2つです。
この2つの要件を明確に区別して記載することが、認識の齟齬を防ぐ上で不可欠です。
機能要件とは、システムがユーザーに提供する具体的な機能に関する定義です。
例えば、販売管理システムであれば「商品登録機能」「在庫管理機能」「受注管理機能」「請求書発行機能」などが該当します。
ユーザーが業務を遂行するために、システム上で「何ができるか」を明確にする項目です。
この機能要件を定義する際は、業務フローと照らし合わせながら、必要な機能を漏れなく洗い出すことが重要です。
ユーザーの要求を直接的に形にする部分であり、開発するシステムの根幹をなす仕様といえます。
非機能要件とは、機能要件以外でシステムが満たすべき性能や品質に関する定義を指します。
具体的には、システムの応答速度(パフォーマンス)、24時間365日稼働できるか(可用性)、将来のユーザー数増加に対応できるか(拡張性)、情報漏洩を防ぐ仕組み(セキュリティ)などが含まれます。
これらの要件は、システムの使いやすさや安定性、安全性に直結するため、機能要件と同じくらい重要です。
どんなに便利な機能があっても、「動作が遅い」「頻繁に停止する」といった状態では、ユーザーは快適にシステムを利用できません。
要件定義を体系的に進めることは、プロジェクト成功の鍵となります。
闇雲に作業を始めるのではなく、確立された手順、フローに沿って進めることで、抜け漏れや手戻りを防ぎ、効率的に要件を固めることができます。
ここでは、システム開発の初心者にも理解しやすいように、要件定義の基本的なプロセスを5つのステップに分けて具体的に解説します。
この流れを意識することで、一連の作業をスムーズに進められるようになります。
要件定義の第一歩は、新しいシステムを利用するユーザーやプロジェクトの関係者から話を聞くことから始まります。
このヒアリングを通じて、現在の業務の流れ、どのような点に不便を感じているか、システムに何を期待しているかといった情報を収集します。
これが要件を定義するための重要なインプットとなります。
この段階では、解決策を限定せず、まずは現状の課題やニーズを幅広く聞き出すことに注力します。
現場の担当者や管理者など、様々な立場の関係者から意見を集めることで、多角的な視点から問題を把握できます。
ヒアリングで集めた情報は、そのままでは断片的で整理されていないことがほとんどです。
次のステップでは、これらの情報を整理し、分析することで、ユーザーが本当に解決したい課題、つまり「要求」を明確にしていきます。
収集した要望をグルーピングしたり、関連性を明らかにしたりしながら、なぜその要望が出てきたのかという背景を深掘りします。
例えば、「入力作業を楽にしたい」という漠然とした要望があれば、具体的にどの作業にどれくらい時間がかかっているのかを分析し、問題の核心を突き止めます。
これにより、漠然とした希望が具体的な要求へと変わります。
明確化された要求をもとに、それをシステムでどのように実現するかを具体的に定義する工程です。
このステップで、システムに実装すべき「機能要件」と、システムの性能や品質に関する「非機能要件」を決定します。
例えば、「顧客情報を素早く探したい」という要求に対して、「顧客名や電話番号で検索できる機能」という機能要件を定めます。
同時に、「検索結果は3秒以内に表示する」といった非機能要件も定義します。
予算や開発期間、技術的な実現可能性を考慮しながら、実装する要件の範囲と優先順位を決定することが重要です。
定義したすべての要件を、関係者全員が正確に理解できるよう文書化します。
この成果物が「要件定義書」です。
この資料には、システムの開発目的、全体像、業務フロー、そして定義した機能要件と非機能要件の一覧などを詳細に記載します。
文章だけでなく、図や表を効果的に用いることで、より分かりやすいドキュメントを作成することが可能です。
要件定義書は、発注者と開発者の間の公式な合意文書となり、後の設計・開発工程における仕様の基準となるため、誰が読んでも解釈に違いが生まれないよう、明確かつ具体的に記述する必要があります。
完成した要件定義書は、作成者だけで完結させるのではなく、必ずすべてのプロジェクト関係者と共有し、レビュー会を実施します。
この場で、記載内容に抜け漏れや誤りがないか、ユーザーの要求が正しく反映されているかなどを、それぞれの立場から入念に確認します。
発注者側は「自分たちのやりたいことが実現できるか」、開発者側は「この内容で技術的に実現可能か」といった視点でチェックします。
レビューで出た指摘事項を修正し、最終的に全員が内容に納得した上で合意を形成します。
この合意が、後のトラブルを防ぎ、プロジェクトを円滑に進めるための基盤となります。
要件定義は、決められた手順を踏むだけで成功するとは限りません。
プロジェクトを成功に導くためには、プロセスの中で意識すべきいくつかの重要なポイントがあります。
特に、関係者間の円滑なコミュニケーションや、認識のズレをいかに防ぐかといった点が、要件定義の質を大きく左右します。
ここでは、要件定義の精度を高め、失敗のリスクを低減させるために実践したい4つのポイントを解説します。
質の高い要件定義を行うための大前提は、開発するシステムが使われる現場の業務内容を深く理解することです。
ユーザーが「誰で」「どのような目的で」「どのような手順で」業務を行っているのかを把握しなければ、表面的な要望に振り回され、本質的な課題解決には至りません。
業務フロー全体を理解することで、ユーザー自身も気づいていない改善点や潜在的なニーズを掘り起こすことが可能になります。
既に何らかのシステムが稼働している場合は、その機能や使い方、問題点を分析することも、新しいシステムに求められる要件を考える上で非常に重要です。
関係者へのヒアリングは、要件定義における情報収集の要ですが、漠然と話を聞くだけでは十分な情報を得られません。
ヒアリングの精度を高めるためには、「5W1H(When:いつ、Where:どこで、Who:誰が、What:何を、Why:なぜ、How:どのように)」のフレームワークを活用することが有効です。
例えば、ある機能について要望が出た際に、
「なぜ(Why)その機能が必要なのですか?」「どのような人(Who)が、どのような使い方(How)を想定していますか?」と深掘りして質問することで、要望の背景や目的が明確になり、より具体的で的確な要件定義が可能になります。
要件定義の内容を文章だけで伝えると、読み手によって解釈が異なり、認識のズレが生じるリスクがあります。
こうしたズレを防ぐためには、視覚的な資料を積極的に活用することが非常に効果的です。
例えば、業務の流れを図で示す業務フロー図や、システムの画面イメージを簡易的に作成したプロトタイプを提示することで、関係者全員が同じ完成イメージを共有できます。
特に画面のサンプルなどを見せることは、ユーザーにとってシステムの使い勝手を具体的に想像する助けとなり、「完成したら思っていたものと違った」という事態を未然に防ぎます。
要件定義書が完成したら、プロジェクトに関わる全ての関係者でレビュー(内容の確認・検証)を行う機会を設けます。
発注者側の業務担当者、承認者、そして開発者側のプロジェクトマネージャー、設計者など、それぞれの専門的な視点から内容を多角的にチェックすることで、一人では気づけなかった矛盾点や考慮漏れ、リスクを発見できます。
このレビュープロセスを通じて、記載された要件に対する全員の理解度を深め、内容への合意を形成します。
この徹底したレビューが、後工程での手戻りを防ぎ、プロジェクト全体の品質を高めることにつながります。
要件定義は、単純な作業ではなく、多様な能力が求められる専門性の高い業務です。
担当者には、技術的な知識はもちろんのこと、ビジネスサイドの要求を正確に理解し、それを具体的なシステムの仕様に落とし込み、関係者間の利害を調整する高度なスキルが要求されます。
ここでは、要件定義を成功に導くために担当者が備えておくべき、代表的な4つのスキルセットについて紹介します。
要件定義の担当者に最も求められるスキルの一つが、コミュニケーション能力です。
特に重要なのが、ユーザーとの対話を通じて、彼らが抱える本質的な課題や、言葉になっていない潜在的なニーズを引き出すヒアリング能力です。
相手の話に真摯に耳を傾ける傾聴力と、的確な質問で話を深掘りする質問力が不可欠です。
また、システム部門とユーザー部門、あるいは発注者と開発者といった異なる立場の関係者の間に立ち、双方の意見を調整し、円滑な合意形成を促進するファシリテーション能力も極めて重要になります。
ヒアリングなどを通じて収集した、雑多で断片的な情報を整理し、体系立てて構造化する論理的思考力が求められます。
ユーザーからの様々な要望を分析し、それらの関係性や優先順位を明確にし、矛盾なく整理する能力が必要です。
そして、整理した内容を「要件定義書」というドキュメントに、誰が読んでも誤解が生じないよう明確かつ具体的に記述する文書作成スキルも欠かせません。
論理的で分かりやすい文書を作成する能力が、関係者間の認識のズレを防ぎ、プロジェクトを円滑に進行させる基盤となります。
ユーザーから出された要望が、技術的に実現可能なのか、また、どのような技術を使えば最も効率的に実現できるのかを判断するためには、システム開発に関する幅広い技術知識が必要です。
プログラミングやデータベース、ネットワーク、セキュリティなどに関する基本的な知識がなければ、実現性の乏しい要件を定義してしまったり、開発者との円滑な意思疎通ができなかったりする可能性があります。
技術的な裏付けを持って要件を定義することで、後工程での手戻りやトラブルを未然に防ぎ、プロジェクトの実現可能性を高めることができます。
効果的なシステムを定義するためには、そのシステムが使われる顧客の業務内容や、その業界特有のルール・慣習に関する深い知識が不可欠です。
業務知識がなければ、ユーザーが話す専門用語や課題の背景を正しく理解できず、的外れな要件定義をしてしまう恐れがあります。
業界や業務に精通していれば、ユーザーの言葉の裏にある本質的なニーズを汲み取り、より付加価値の高い提案を行うことも可能です。
技術的な視点だけでなく、ビジネスの視点からシステムのあるべき姿を考えるために、この知見は極めて重要です。
システム開発における要件定義は、プロジェクトの成否を決定づける土台となる工程です。 ユーザーからの要求を整理し、機能要件と非機能要件を明確に定義することで、開発の方向性が定まります。
このプロセスは、ヒアリングによる課題の洗い出しから始まり、要求の分析、要件の定義、要件定義書への文書化、そして関係者間の合意形成という一連の手順で進められます。 担当者には、コミュニケーション能力や論理的思考力、技術知識、業務知見といった多岐にわたるスキルが求められます。 これらの要点を確実に押さえることが、プロジェクトの失敗リスクを低減させます。
インプルでは、業務課題の整理から要件定義書の作成支援まで、企業の状況に合わせたサポートを行っています。
「自社でどう進めるべきか分からない」「要件定義の段階から相談したい」といったお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
要件定義の無料相談はこちら。
この段階で、開発するシステムに必要な機能や性能を明確に定めます。
本記事では、システム開発における要件とは何かという基本から、具体的な進め方や手順、全体の流れについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。
適切な要件定義の進め方を理解することで、プロジェクトを円滑に進行させることが可能になります。
目次
まずは基本から!システム開発における要件定義の役割
システム開発の土台となる「要件定義」の概要
「要求定義」とは何が違うのか?それぞれの目的を解説
要件定義で失敗するとどうなる?プロジェクトへの影響
手戻りや追加開発で開発コストが増大する
システムの仕様が固まらずスケジュールが遅延する
完成したシステムが業務内容に合わない
要件定義書に盛り込むべき2つの重要項目
初心者でもわかる!要件定義を進める5つのステップ
要件定義を成功に導くための4つのポイント
要件定義で求められる担当者のスキルセット
まとめ
まずは基本から!システム開発における要件定義の役割
システム開発における要件定義は、プロジェクト全体の方向性を決定づける羅針盤のような役割を担います。
この工程の目的は、発注者がシステムに求めることと、開発者が作るべきものの認識を合わせ、開発のゴールを具体的に設定することです。
後続の設計や開発といった全工程は、ここで定められた要件定義に基づいて進められるため、プロジェクトの土台となる非常に重要なプロセスと言えます。
システム開発の土台となる「要件定義」の概要
要件定義は、システム開発プロジェクトの最上流工程に位置づけられ、システムに実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にする作業です。
発注者(ユーザー)が抱える課題や要望をヒアリングし、それを基に「システムで何を、どこまで実現するのか」という範囲を具体的に定めます。
ここで決定した内容は、システムの画面設計や機能設計を行う基本設計フェーズのインプット情報となります。
したがって、要件定義の精度がプロジェクト全体の品質やスケジュール、コストを大きく左右するため、非常に重要な工程とされています。
「要求定義」とは何が違うのか?それぞれの目的を解説
要件定義と混同されやすい言葉に「要求定義」があります。
要求定義は、要件定義の前に行われる工程で、ユーザーがシステムに対して「こうだったらいいな」「こんな機能が欲しい」といった要望や課題を自由に洗い出す段階です。
目的は、システム化によって実現したいことを網羅的に収集することにあります。
一方、要件定義は、その集まった要求の中から、予算や技術的な実現可能性を考慮して、システムとして具体的に実装するべき仕様、つまり「要件」に落とし込む工程です。
要求はユーザーの希望、要件は開発するシステムの仕様と整理すると分かりやすいでしょう。
要件定義で失敗するとどうなる?プロジェクトへの影響
要件定義の失敗は、プロジェクト全体に深刻な影響を及ぼします。
この工程で定義が曖昧だったり、関係者間の認識にズレがあったりすると、後々の工程で様々な問題が噴出します。
例えば、開発コストの想定外の増加や納期の遅延、最悪の場合には完成したシステムが全く使えないといった事態を招きかねません。
ここでは、要件定義の失敗が引き起こす具体的な影響について解説します。
手戻りや追加開発で開発コストが増大する
要件定義が不十分な場合、開発の途中で仕様の変更や機能の追加が頻発します。
これにより、すでに作成した設計書やプログラムを修正する「手戻り」が発生し、余計な工数がかかります。
当初の見積に含まれていなかった作業が増えるため、開発費用は必然的に増大します。
特に、成果物の完成を約束する請負契約の場合、契約範囲外の追加開発は別途費用が発生し、発注者と開発者の間でトラブルになることも少なくありません。
初期段階で要件を固めることが、予算超過のリスクを抑える上で極めて重要です。
システムの仕様が固まらずスケジュールが遅延する
要件定義が曖昧だと、後工程を担当する設計者や開発者は、どのような機能を作ればよいのか判断できません。
その結果、仕様に関する確認作業が頻繁に発生し、個々のタスクが停滞してしまいます。
一つ一つの遅れは小さくても、積み重なることでプロジェクト全体のスケジュールに大きな遅延をもたらします。
特に、開発の終盤で定義漏れの要件が発覚した場合、大幅な設計変更や追加開発が必要となり、納期を守ることが極めて困難になるでしょう。
明確な要件は、プロジェクトを計画通りに進めるための道標となります。
完成したシステムが業務内容に合わない
要件定義で失敗する最も深刻なケースは、完成したソフトウェアが実際の業務で役に立たないことです。
ユーザーの業務フローや本当の課題が正しく理解されないまま開発が進むと、操作性が悪かったり、必要な機能が不足していたりするシステムが出来上がってしまいます。
どんなに最新の技術を使ったソフトウェアであっても、業務効率の改善につながらなければ導入する意味がありません。
結果的に、多額のコストと時間をかけて開発したシステムが全く使われず、投資が無駄になってしまうリスクがあります。
要件定義書に盛り込むべき2つの重要項目
要件定義で決定した内容は、要件定義書というドキュメントにまとめられます。
この要件定義書は、発注者と開発者の間で何を作るのかという合意を形成するための公式な資料となります。
その内容には様々な項目が含まれますが、特に重要となるのが、システムが提供する機能を定める機能要件と、システムの品質や性能を定める非機能要件の2つです。
この2つの要件を明確に区別して記載することが、認識の齟齬を防ぐ上で不可欠です。
システムに搭載する機能を決める「機能要件」
機能要件とは、システムがユーザーに提供する具体的な機能に関する定義です。
例えば、販売管理システムであれば「商品登録機能」「在庫管理機能」「受注管理機能」「請求書発行機能」などが該当します。
ユーザーが業務を遂行するために、システム上で「何ができるか」を明確にする項目です。
この機能要件を定義する際は、業務フローと照らし合わせながら、必要な機能を漏れなく洗い出すことが重要です。
ユーザーの要求を直接的に形にする部分であり、開発するシステムの根幹をなす仕様といえます。
システムの性能や品質に関わる「非機能要件」
非機能要件とは、機能要件以外でシステムが満たすべき性能や品質に関する定義を指します。
具体的には、システムの応答速度(パフォーマンス)、24時間365日稼働できるか(可用性)、将来のユーザー数増加に対応できるか(拡張性)、情報漏洩を防ぐ仕組み(セキュリティ)などが含まれます。
これらの要件は、システムの使いやすさや安定性、安全性に直結するため、機能要件と同じくらい重要です。
どんなに便利な機能があっても、「動作が遅い」「頻繁に停止する」といった状態では、ユーザーは快適にシステムを利用できません。
初心者でもわかる!要件定義を進める5つのステップ
要件定義を体系的に進めることは、プロジェクト成功の鍵となります。
闇雲に作業を始めるのではなく、確立された手順、フローに沿って進めることで、抜け漏れや手戻りを防ぎ、効率的に要件を固めることができます。
ここでは、システム開発の初心者にも理解しやすいように、要件定義の基本的なプロセスを5つのステップに分けて具体的に解説します。
この流れを意識することで、一連の作業をスムーズに進められるようになります。
STEP1:関係者へのヒアリングで現状の課題を洗い出す
要件定義の第一歩は、新しいシステムを利用するユーザーやプロジェクトの関係者から話を聞くことから始まります。
このヒアリングを通じて、現在の業務の流れ、どのような点に不便を感じているか、システムに何を期待しているかといった情報を収集します。
これが要件を定義するための重要なインプットとなります。
この段階では、解決策を限定せず、まずは現状の課題やニーズを幅広く聞き出すことに注力します。
現場の担当者や管理者など、様々な立場の関係者から意見を集めることで、多角的な視点から問題を把握できます。
STEP2:ヒアリング内容を整理・分析して要求を明確化する
ヒアリングで集めた情報は、そのままでは断片的で整理されていないことがほとんどです。
次のステップでは、これらの情報を整理し、分析することで、ユーザーが本当に解決したい課題、つまり「要求」を明確にしていきます。
収集した要望をグルーピングしたり、関連性を明らかにしたりしながら、なぜその要望が出てきたのかという背景を深掘りします。
例えば、「入力作業を楽にしたい」という漠然とした要望があれば、具体的にどの作業にどれくらい時間がかかっているのかを分析し、問題の核心を突き止めます。
これにより、漠然とした希望が具体的な要求へと変わります。
STEP3:システムで実現する機能・非機能要件を定義する
明確化された要求をもとに、それをシステムでどのように実現するかを具体的に定義する工程です。
このステップで、システムに実装すべき「機能要件」と、システムの性能や品質に関する「非機能要件」を決定します。
例えば、「顧客情報を素早く探したい」という要求に対して、「顧客名や電話番号で検索できる機能」という機能要件を定めます。
同時に、「検索結果は3秒以内に表示する」といった非機能要件も定義します。
予算や開発期間、技術的な実現可能性を考慮しながら、実装する要件の範囲と優先順位を決定することが重要です。
STEP4:要件定義書としてドキュメントにまとめる
定義したすべての要件を、関係者全員が正確に理解できるよう文書化します。
この成果物が「要件定義書」です。
この資料には、システムの開発目的、全体像、業務フロー、そして定義した機能要件と非機能要件の一覧などを詳細に記載します。
文章だけでなく、図や表を効果的に用いることで、より分かりやすいドキュメントを作成することが可能です。
要件定義書は、発注者と開発者の間の公式な合意文書となり、後の設計・開発工程における仕様の基準となるため、誰が読んでも解釈に違いが生まれないよう、明確かつ具体的に記述する必要があります。
STEP5:関係者と内容をすり合わせ合意を得る
完成した要件定義書は、作成者だけで完結させるのではなく、必ずすべてのプロジェクト関係者と共有し、レビュー会を実施します。
この場で、記載内容に抜け漏れや誤りがないか、ユーザーの要求が正しく反映されているかなどを、それぞれの立場から入念に確認します。
発注者側は「自分たちのやりたいことが実現できるか」、開発者側は「この内容で技術的に実現可能か」といった視点でチェックします。
レビューで出た指摘事項を修正し、最終的に全員が内容に納得した上で合意を形成します。
この合意が、後のトラブルを防ぎ、プロジェクトを円滑に進めるための基盤となります。
要件定義を成功に導くための4つのポイント
要件定義は、決められた手順を踏むだけで成功するとは限りません。
プロジェクトを成功に導くためには、プロセスの中で意識すべきいくつかの重要なポイントがあります。
特に、関係者間の円滑なコミュニケーションや、認識のズレをいかに防ぐかといった点が、要件定義の質を大きく左右します。
ここでは、要件定義の精度を高め、失敗のリスクを低減させるために実践したい4つのポイントを解説します。
ユーザーの業務内容や現行システムを深く理解する
質の高い要件定義を行うための大前提は、開発するシステムが使われる現場の業務内容を深く理解することです。
ユーザーが「誰で」「どのような目的で」「どのような手順で」業務を行っているのかを把握しなければ、表面的な要望に振り回され、本質的な課題解決には至りません。
業務フロー全体を理解することで、ユーザー自身も気づいていない改善点や潜在的なニーズを掘り起こすことが可能になります。
既に何らかのシステムが稼働している場合は、その機能や使い方、問題点を分析することも、新しいシステムに求められる要件を考える上で非常に重要です。
5W1Hを活用してヒアリングの精度を高める
関係者へのヒアリングは、要件定義における情報収集の要ですが、漠然と話を聞くだけでは十分な情報を得られません。
ヒアリングの精度を高めるためには、「5W1H(When:いつ、Where:どこで、Who:誰が、What:何を、Why:なぜ、How:どのように)」のフレームワークを活用することが有効です。
例えば、ある機能について要望が出た際に、
「なぜ(Why)その機能が必要なのですか?」「どのような人(Who)が、どのような使い方(How)を想定していますか?」と深掘りして質問することで、要望の背景や目的が明確になり、より具体的で的確な要件定義が可能になります。
プロトタイプや図を用いて認識のズレを防ぐ
要件定義の内容を文章だけで伝えると、読み手によって解釈が異なり、認識のズレが生じるリスクがあります。
こうしたズレを防ぐためには、視覚的な資料を積極的に活用することが非常に効果的です。
例えば、業務の流れを図で示す業務フロー図や、システムの画面イメージを簡易的に作成したプロトタイプを提示することで、関係者全員が同じ完成イメージを共有できます。
特に画面のサンプルなどを見せることは、ユーザーにとってシステムの使い勝手を具体的に想像する助けとなり、「完成したら思っていたものと違った」という事態を未然に防ぎます。
関係者全員で要件定義書のレビューを徹底する
要件定義書が完成したら、プロジェクトに関わる全ての関係者でレビュー(内容の確認・検証)を行う機会を設けます。
発注者側の業務担当者、承認者、そして開発者側のプロジェクトマネージャー、設計者など、それぞれの専門的な視点から内容を多角的にチェックすることで、一人では気づけなかった矛盾点や考慮漏れ、リスクを発見できます。
このレビュープロセスを通じて、記載された要件に対する全員の理解度を深め、内容への合意を形成します。
この徹底したレビューが、後工程での手戻りを防ぎ、プロジェクト全体の品質を高めることにつながります。
要件定義で求められる担当者のスキルセット
要件定義は、単純な作業ではなく、多様な能力が求められる専門性の高い業務です。
担当者には、技術的な知識はもちろんのこと、ビジネスサイドの要求を正確に理解し、それを具体的なシステムの仕様に落とし込み、関係者間の利害を調整する高度なスキルが要求されます。
ここでは、要件定義を成功に導くために担当者が備えておくべき、代表的な4つのスキルセットについて紹介します。
課題を的確に引き出すコミュニケーション能力
要件定義の担当者に最も求められるスキルの一つが、コミュニケーション能力です。
特に重要なのが、ユーザーとの対話を通じて、彼らが抱える本質的な課題や、言葉になっていない潜在的なニーズを引き出すヒアリング能力です。
相手の話に真摯に耳を傾ける傾聴力と、的確な質問で話を深掘りする質問力が不可欠です。
また、システム部門とユーザー部門、あるいは発注者と開発者といった異なる立場の関係者の間に立ち、双方の意見を調整し、円滑な合意形成を促進するファシリテーション能力も極めて重要になります。
要件を論理的に整理し文書化するスキル
ヒアリングなどを通じて収集した、雑多で断片的な情報を整理し、体系立てて構造化する論理的思考力が求められます。
ユーザーからの様々な要望を分析し、それらの関係性や優先順位を明確にし、矛盾なく整理する能力が必要です。
そして、整理した内容を「要件定義書」というドキュメントに、誰が読んでも誤解が生じないよう明確かつ具体的に記述する文書作成スキルも欠かせません。
論理的で分かりやすい文書を作成する能力が、関係者間の認識のズレを防ぎ、プロジェクトを円滑に進行させる基盤となります。
開発するシステムの技術的な知識
ユーザーから出された要望が、技術的に実現可能なのか、また、どのような技術を使えば最も効率的に実現できるのかを判断するためには、システム開発に関する幅広い技術知識が必要です。
プログラミングやデータベース、ネットワーク、セキュリティなどに関する基本的な知識がなければ、実現性の乏しい要件を定義してしまったり、開発者との円滑な意思疎通ができなかったりする可能性があります。
技術的な裏付けを持って要件を定義することで、後工程での手戻りやトラブルを未然に防ぎ、プロジェクトの実現可能性を高めることができます。
顧客の業務や業界に関する深い知見
効果的なシステムを定義するためには、そのシステムが使われる顧客の業務内容や、その業界特有のルール・慣習に関する深い知識が不可欠です。
業務知識がなければ、ユーザーが話す専門用語や課題の背景を正しく理解できず、的外れな要件定義をしてしまう恐れがあります。
業界や業務に精通していれば、ユーザーの言葉の裏にある本質的なニーズを汲み取り、より付加価値の高い提案を行うことも可能です。
技術的な視点だけでなく、ビジネスの視点からシステムのあるべき姿を考えるために、この知見は極めて重要です。
まとめ
システム開発における要件定義は、プロジェクトの成否を決定づける土台となる工程です。 ユーザーからの要求を整理し、機能要件と非機能要件を明確に定義することで、開発の方向性が定まります。
このプロセスは、ヒアリングによる課題の洗い出しから始まり、要求の分析、要件の定義、要件定義書への文書化、そして関係者間の合意形成という一連の手順で進められます。 担当者には、コミュニケーション能力や論理的思考力、技術知識、業務知見といった多岐にわたるスキルが求められます。 これらの要点を確実に押さえることが、プロジェクトの失敗リスクを低減させます。
インプルでは、業務課題の整理から要件定義書の作成支援まで、企業の状況に合わせたサポートを行っています。
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